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いちばん遠くて深いもの / あかしゆか

片岡義男『1日じゅう空を見ていた』
テーマ「空」 
入道雲が湧き上がり、星が一層煌く、夏の空から、少しずつ夕方がうろこ雲になり、満月が綺麗な秋の空へ。空のうつろいは、季節を映す大きな鏡です。また、空(くう)は「般若心経」の「色即是空」という言葉にもあるように、禅の教えの中でも大切な言葉です。万物は、それを捉えるかけらの集合体でしかなく、本当はなにもない。だからこそ、なにもないように見える空に、何かを見出す心もまた、人間らしいのかもしれません。
いちばん遠くて深いもの01
いちばん遠くて深いもの02
いちばん遠くて深いもの03
いちばん遠くて深いもの04
いちばん遠くて深いもの01
いちばん遠くて深いもの02
いちばん遠くて深いもの03
いちばん遠くて深いもの04

大学生のころ、片岡義男さんの角川文庫シリーズと出会い、貪るように読んだ時期があった。

『味噌汁は朝のブルース』『ドライ・マティーニが口をきく』『アップル・サイダーと彼女』

風変わりで色気のあるタイトルが特徴的な、恋愛小説短編集。片岡さんが紡ぐ男女の会話劇に憧れて、大人になると、そんな恋愛ができるものだと信じていた(実際はできていないけれど)。

 

中でも私がひときわ好きなのが、『1日じゅう空を見ていた』という本の中にある、表題と同じ一編だ。

 

もうすぐ誕生日を迎える主人公の女性は、恋人(らしき人)から、プレゼントは何がいいかと聞かれ、「1日じゅう空を見る時間がほしい」と答える。ひょんなきっかけから手に入れた2シーターの助手席から空を眺めるため、まる1日運転手をつとめてほしい、と頼むのだ。

 

1日じゅう空を見る。

その時間を、自分の誕生日プレゼントとして求める彼女の余裕ある思考のうつくしさ。物質的なもので満たされるよりも、はるかなる幸福が、そこにはあるような気がした。

 

片岡さんは、空を、小説の中でよく「遠くて深いもの」だと表現する。

 

“青い空をあおいでよく見ると、底なしの深さをたたえた濃いブルーは、心なしか遠のいて見えた”──「缶ビールのロマンス」

 

“空気が澄んでいるから、空の青さは深く遠かった”──「1日じゅう空を見ていた」

 

海が、いちばん近くて深いものであるとするならば、たしかに空は、いちばん遠くて深いものであると思う。

 

決して届かず触れることができない、けれども身近にある空という存在。空は、大切に想う人の心みたいだな、と思う。だからこそ、愛おしくも切なく、人々の心をこんなにも惹きつけるのかもしれない。

 

今日は、いつもより空を見上げてみようと思う。

そして、いつもより、大切な人のことを想おうと思った。

 

<Profile>

あかしゆか

1992年うまれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋ではたらいた経験から、文章にかかわる仕事がしたいと編集者をめざすように。ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動している。

@akyska