まだ娘がお腹の中にいる頃、私はたくさんの美しい音や言葉、景色に触れたいと思った。

それは何も所持しない、気ままで心地良く、風のように軽やかな喜びだった。

本当に大切なものはなんだろう？

私を幸せにしてくれるものはなんだろう？

長田さんの詩集は、両手を広げて自然の声を聴くことを思い出させてくれた。

コブシの花の季節がくると、

海を見にゆきたくなる。

何もしない浜辺で、

何もしない時間を手に、

遠くから走ってくる波を眺める。

そして、何もない浜辺で、

何もしない時間を手に、

波の光がはこぶ海の声を聴く。

眺めることは、聴くことである。

私の心に残る一節だ。

大きなお腹を抱えながら、起き抜けの身体にダウンを着込んで散歩した、澄みきった冬の海辺を思い出す。大きく深呼吸をすると、すーっと力が抜けて、何も持たずに新しい暮らしに飛び込む勇気が持てた。

今、横で眠る生後間もない小さな娘は、生に満ち、とても清らかで美しい。飾ることなく、自らが溢れる光のような存在だ。

目に見えないけど、心を打つもの。

自然も人間もそのままで美しいし、自らの生き方もそうありたいと願う。

風に乗るように、軽やかに、軽やかに。

感受性を研ぎ澄まし、新しい時代を生きてゆこう。

＜PROFILE＞

大井愛美　「Listen to Nature」主宰

自然を身近に、美しく暮らしを楽しむことをコンセプトとしたフローリスト。webshopでの販売、アトリエやオンラインサロンでのフラワーレッスンを運営。

Instagram：@listen.to.nature